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　マッチングと聞いて若者が思い浮かべるのは、アプリを利用した婚活だろうか。だが、人手不足が進む地域農業の現場では、農家と求職者を紹介し合う新しい「マッチング」が広がり始めている。人口減少にあえぐ四国で広がるこれまでにない「出会い」の現場を訪ねた。

　高知県を代表する秋の味覚、ショウガ。11月上旬、同県香美市に本社を置く農業法人「サカタ」の畑でも、同社オリジナルの「黄金（こがね）生姜」が収穫のピークを迎えていた。「人海戦術をとらないと収穫が終わらないですね」と栽培管理課の高橋誠さん（45）。市内だけでも約30ヘクタールもの畑を持つ同社では、繁忙期の10～11月ごろ、280人前後の臨時アルバイトを雇う。よく晴れたこの日も大勢の人たちが収穫作業にいそしんでいた。

　主婦や農業経験のある高齢者たちに混じって黙々と作業に取り組む若者のグループがいた。「農業の経験なんてなかったんですが」「友達と簡単に応募できたので参加してみようかと」。高知大学や高知工科大学に通う4人の男子学生が教えてくれた。

　彼らが応募に利用したのが、農業アルバイトに特化したマッチングサービス「AIagri.（アイアグリ）」だ。2020年5月に地域活性化コンサルティング会社「KIRI」（松山市）が愛媛県で開始。22年上半期に徳島、香川両県に、同10月に高知にも拡大し、今では四国全域で提供している。

　利用は簡単だ。同社のホームページやインターネット求人サイトを経由して、通信アプリLINE（ライン）でAIagri.のアカウントを友だちに追加すれば、アルバイト探しから応募までアプリ上で全てできる。名前や住所などの個人情報を登録しておけば、履歴書の提出や面接の必要がないなど、利用者にとって応募のハードルが極めて低い。

　求人の掲載はファクスや電話から申し込むことができ、掲載費もかからない。農家も求職者もIT（情報技術）の知識に疎くても容易に使える。今回初めてサービスを使ったという「サカタ」の高橋さんは「ここまで人が集まるとは。収穫に必要な体力のある若手が多く、とても助かっています」と話す。これまでアルバイト求人に集まるのは60歳以上が主体だったが、AIagri.による求人からは周辺大学の学生を中心とした若者が多く集まった。

　開発したKIRIの高橋大希さん（26）は「アルバイトの検索から応募までインターネット上で全て完結するからこそ、今まで出会えなかった若者と農家をつなげられる」と狙いを話す。サービス考案のきっかけは、18年の西日本豪雨だった。当時は愛媛大学の3年生。ボランティアとして愛媛県宇和島市のミカン農家の元でがれきの撤去や農作業の手伝いなどに参加した後も、住み込みのアルバイトとして農業に従事した。間近に見たのが、農家の深刻な人手不足。アルバイト先では高橋大希さんを含む計4人でミカンの収穫に従事したが、1人がけがで離脱。代わりとなる人を見つけられず「本当にギリギリで成り立っているんだ」と感じたという。

　自身の周囲には、時間を持て余している大学生がたくさんいたが、農家側は知識不足からインターネットに求人などは掲載していなかった。この両者を結び付けられないか。農家の求人をLINEで友人たちに伝えたところ、多くが参加した。この体験がAIagri.の出発点になった。大学卒業後、ボランティアの際に知り合った中野泰誠・愛媛県議が代表を務めるKIRIに誘われて入社。温めていたアイデアの実現にこぎ着けた。

減る若年層の就農者数

　農林水産省が20年に発表した「農業構造の展望」によれば、15年時点で計35万人だった49歳以下の就農者数が、30年には28万人まで減ると試算された。持続可能な農業を実現するために37万人が必要としており、将来にわたって日本の農業を支える若年層の就農を増やすのが不可欠だ。その「入り口」となり得るマッチングサービスは、課題解決に貢献できると期待される。実際、AIagri.でのアルバイト体験が発端となって就農した若者も出始めている。

　また、自治体自らサービス構築に乗り出す例もある。高知県四万十町でも今年に入り、ウェブ上で独自のマッチング「しまんとJOIN（ジョイン）」を始めた。町への移住に関心がある人を主な求職者に想定。町で実際に働く体験を通じて移住に前向きになってもらい、町民の増加を目指す。

　「サービス開始から約3年がたち、知名度が次第に高まってきた。さまざまな自治体やネットワークを持つ事業者と協力して、今後も広げていきたい」と高橋大希さん。KIRIは、四国のみならず、対岸の大分県の一部地域でもサービスを始めている。今後は、九州地方や中国地方で拡大し、全国展開につなげることを目指す。【小宅洋介】